はじめに:乾杯の裏で壊される尊厳
「酔ってただけだよ」「記憶にないんだ」——この言葉を聞くたびに、背筋が凍る。酒に酔ったからといって、何をしても許されるのか?いや、違う。酔っていたからではなく、本当の“お前”が出ただけだ。
職場の飲み会。それは名ばかりの親睦会であり、実態は上下関係と空気の支配が蔓延る“強制イベント”。その空間で「冗談」「ノリ」「酒の勢い」と称されてなかったことにされる行為が、どれほどの人を傷つけ、心を壊しているか。特に女性や若手社員は、その空気に逆らえず、自分を殺しながら無理に笑顔を作っている。
この問題を見て見ぬふりしてはいけない。今回は「酒のせいにするな」というテーマで、飲み会文化の裏にある本質と、仕事観のゆがみについて一緒に考えていきたい。これは、誰かの話じゃない。あなた自身の、そしてあなたの大切な人の尊厳の話だ。
見えない強制——自由なはずが断れない
「欠席でいいよ」と言いながら、後日小言を言われる。輪に入らなかったことを理由に評価が下がる。そんな会社、あなたの周りにもあるだろう。
断ったら「ノリ悪い」、参加したら「何かされるかも」。そんな板挟みの中で、心をすり減らしていく若手や女性社員たち。これはもう、ただの職場ではなく“権力の温床”だ。
本来、飲み会は任意であるべきだし、プライベートの時間を使う強制力などあってはならない。にもかかわらず「空気を読め」という名の圧力が、断るという選択肢を奪っている。そしてその空気こそが、セクハラやパワハラの温床になっている。
酒はトリガー——暴かれる本性
「普段はそんなこと言わないのに」「あの人がそんなことを?」と驚く人もいる。だが、酔ったときに出る言動こそ、その人間の深層にある“欲望”や“支配欲”の正体だ。
距離感を無視したボディタッチ、性的な発言、同意のない誘い。これらは明確な“ハラスメント”であり、時には“犯罪”だ。それを「酒のせい」で片付けるのは、加害者にとって都合が良すぎる。
しかも、酒を飲んだうえで“偉い立場の人”がそれをやると、被害者は声を上げにくくなる。「あれくらい普通だよ」「機嫌を損ねたら不利になる」と思わせる社会構造そのものが、問題なのだ。
実際にあった、笑えない話
ある女性社員は、部長から「お前、酔うと可愛いな」と肩を抱かれた。その後、無理やり2次会に連れ出され、カラオケルームでキスを迫られた。
翌日、彼は「記憶にない」と言ったという。そして会社側も「まぁまぁ、酒の席だから」で済ませた。——彼女はその後、会社を辞めた。心が壊れたのは、その夜の出来事だけが原因ではない。誰も味方になってくれなかった“無関心”が、彼女の尊厳をさらに踏みにじったのだ。
この話は特別じゃない。日本中の会社で、名前も出せない、声も上げられないまま消えていく人がどれほどいるか。そうして“加害者だけが昇進する社会”が今もなお、平然と存在している。
あなたなら、どうする?
もし、あなたがその場にいたら?もし、目の前で同僚が傷つけられていたら?
「自分は関係ない」と思っても、沈黙は加担だ。勇気を出して、その場を止める。信頼できる人に相談する。録音や記録を取る。被害者に寄り添う。ただ聞いてあげるだけでも、救いになることがある。
小さな一歩でいい。でも、その一歩が、誰かの背中を押す力になる。暗闇の中で一筋の光になる。あなたの勇気が、誰かの人生を守ることもある。
「働く」とは、安心できる場所で力を発揮できること
仕事は、ただ成果を出すだけじゃない。「安心して発言できる」「尊厳を守られる」ことも職場の大事な土台だ。その土台が崩れているなら、それはもう“働く場所”とは呼べない。
職場とは本来、人が成長し、挑戦し、支え合う場所であるはずだ。だが今の社会には、“飲み会に行かないと仲間外れ”という幼稚な空気が存在している。そしてそれが、人を不安にし、力を奪っている。
仕事は、命を削る場所じゃない。心が壊れる場所でもない。生きる力を支える場所であってほしい。そのためには、あなた自身が「この職場はおかしい」と声を上げていい。自分を守ることは、逃げじゃない。選択だ。
悩んでいるあなたへ——逃げてもいい、戦ってもいい
「おかしい」と思ったら、それはあなたの感覚が正しい。無理して笑わなくていい。無理して付き合わなくていい。
誰も守ってくれないと感じるなら、外に助けを求めていい。会社だけが世界じゃない。証拠を集め、法律に訴える道もある。心が壊れる前に、動いてほしい。
人としての尊厳を奪われてまで、そこにい続ける必要はない。あなたには、もっと自分らしく働ける場所がある。そして、あなたは悪くない。責めるべきは、酒を理由に人を傷つける“そいつ”だ。
まとめ:本性は酒で隠せない、社会はもう黙らない
「酒のせい」で人は変わらない。変わるのは“仮面”が外れただけ。本当の顔が見えただけ。
職場とは、互いの人権を守り、成長を支え合う場であるべきだ。セクハラや支配はそこに必要ない。酒の勢いで出た言葉も行動も、立派な加害行為だ。
この社会に、そんな“地獄の飲み会”はいらない。苦しんでいる人を黙らせる空気もいらない。変えよう。自分の声で、行動で。そしてまずは「酒のせいにするな」と、はっきり言おう。
あなたの尊厳は、誰にも壊させてはいけない。あなたの人生は、あなたのものだ。